2012年5月4日金曜日

春は名のみの風の冷たさ

北の安曇野渓流会 理事 ● 川北卓史

待ちに待った釣りのシーズン、厳しい寒さも和み、谷にもやっと穏やかな春の日差し。てなわけで、行って来ました。*1週間前のレポートです

蓮華大橋より籠川出合いまでいまだ魚の気配なし。結論からいうと、まだまだ長野の谷は凍りついたままでした。
最初に竿を振ったのは、高瀬川本流。ここは毎年早期に入ることにしています。その年の状況を占うにはもってこいの場所、良い年、悪い年の見極めができる谷です。上手の高瀬ダム、支流の籠川、鹿島川の流れを集めている本流なので、まず、この水系の魚の動きを知る目的で入渓するのです。
長野の自然渓流は魚(ヤマメ)の移動が激しく、早期の内はそのタイミィングを外すと釣りになりません。解禁当初、一番効率よく釣れるのは、もっと下流の犀川本流だと思います。気温が高くなる3月から5月にかけて本流から支流へ、そして谷へと釣り上っていくのが常です。だから、本流の活性を知るのは私の常套手段なのです。
2月〜3月は犀川本流、そして現時点では高瀬本流というわけです。

本流は風が強く、また、水量も多めで空しい釣りになりました。魂の洗濯、ではなく、ただ、ただ、毛鉤の洗濯。良い時は、川の匂いが違います。職漁師の人が好条件の時に口にする、「ネバリのある流れ」というものがどういうものか私は知りませんが、私は匂いで判断しています。たぶん、思い込みでしょうが良い時はなんとなく、船臭いというか、生臭い、というかそんな匂いが、ふん、と鼻をつくのです。
ま、アレルギー性鼻炎の私がいうのですから、まったくあてにはなりませんが。
この日は、そんな匂いもなく、川の流れはなんだか人工的でもあり、高いところから低いところへと流れるのみ。毛鉤も上手から下手へ流れるのみ。私は低いところから高いところへ歩を進めるのみ。何をやっても、何も起こりません。集中して狙い定めて粘っても、立ち位置に注意して毛鉤の流し方を工夫しても、何も起こりません。高い空には暢気にトンビが輪を描くのみ。
河原自体が変化に富んだ渓谷ならまだしも、とうとうと流れる本流でのこういう場面は、本当に空しいものです。体も気持ちも冷え切ります。

途中、鹿島川の出合いから鹿島第一堰堤を執拗にやりました。
本流からの第一堰堤、ヤマメがまずここに溜まるはず、そういう推理です。数年前、ここで良い思いをしたことがあります。その時は、計算どおりヤマメやイワナが溜まっていました。しかも、マヅメ時は入れ食いです。それを体験しているので、必ずここでは細心の注意を払い、堰堤下の流れから溜まりへと毛鉤で探ることにしています。ですが、今日はどうやらここも留守のようでした。
それから、籠川出合いまで釣り上がり、さらには籠川も少しやってみましたが、ここは上の工事の影響で釣りにならず。ついでに籠川大橋から上もやっていこうと、引き返し車で橋まで来るも、川へ下りる林道の雪の上に熊さんの足跡だらけ、なんとなく釣りに集中できません。やはり、釣れませんでした。
そういえば、3月からまとまった雨もなく、雪シロはまだ先、魚が動いていないという印象です。

まだまだ長野の谷には春の息吹は感じられません。まさに、春は名のみの風の、いや、水の冷たさ、ですね。昨年の私自身のメモでは、活性化したのは6月中旬から。今年もそんな遅〜いシーズンになるのか、、、
というわけで、一転し今度は南へ。つまり、下流域へ。

まず、乳川の大町側306号線上を釣り上がります。小さなヤマメの逃げ惑う姿を何度か確認。魚はどうやらいるようです。しかし、水量は少なく、たぶん釣れてもチビヤマメだろうと判断、今度は松川から穂高方面へ。
ちひろ美術館の辺りも気配なし。その下の大門橋から釣り下っていると、対岸の葦の際でバッシャン。これはまあまあの型。色からしてイワナに間違いありません。場所を覚えておいて、下流へ向かうもその後アタリなし。そして、そこへマヅメ時に戻ってきて丁寧にやりましたが、結局あれっきりでした。
毛鉤に反応したというより、毛鉤かハリスが身体に触れて驚いて飛び上がった、という印象でした。

この時期、ダメなときはどう頑張ってもダメなのです。私はただでは転ばない主義なので、釣りがダメなら仕事の取材をします。今日はおかげでスケッチが数枚。山は今が描き時です。山襞に雪のある今は山の中の形が分かるので、スケッチに最適なのです。桜の木も今がスケッチし時ですね。あれは花が咲いたら枝ぶりが隠れてしまうので、まだ咲いていない今なのです。咲いたら宴会するに限りますから。

というわけで、今年初めての本気の釣りは、空振りに終りました。何をやっても釣れない時は本当に空しい。きっと、あのイチローでさえ、今日はこう言うでしょう。
「俺は何をやってもダメな人間だ〜」 と。

*メイン画像の動画は、描いてみたヤマメです。ご笑覧ください。
 ギターは下手くそなので雑音にしか聞こえませんが。